大判例

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福岡高等裁判所 平成3年(ネ)138号 判決

控訴人

山忠商店株式会社

右代表者代表取締役

山村忠

右訴訟代理人弁護士

河野浩

右訴訟復代理人弁護士

岡村邦彦

被控訴人

大分県北生コンクリート事業協同組合

右代表者代表理事

重松幹雄

右訴訟代理人弁護士

山本洋一郎

西畑修司

主文

原判決を取り消す。

大分地方裁判所中津支部昭和六一年(ケ)第一二五号不動産競売事件において、昭和六三年九月二八日作成された配当表の「配当等実施額」欄のうち、控訴人への配当額八三〇万七一五四円とあるのを一七八八万五三一八円に、被控訴人への配当額二五八二万八六三五円とあるのを一六二五万〇四七一円にそれぞれ変更する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  主張及び証拠の関係は、原判決二枚目表二行目の「申立」を「申立て」と、四行目の「落札した」を「買い受けた」と、同枚目裏二行目の「競売代金」を「売却代金」と改め、一〇行目の「及んでいる」の次に「(法二条二項)」を加え、三枚目表八行目の「法二条一、二項」を「法二条一項」と改め、一〇行目の「及んでいる」の次に「(法二条二項)」を加え、末行の「申立」を「申立て」と、同枚目裏初行の「競落代金」を「売却代金」と改め、二行目の「以上」を削り、五枚目表一一行目の「属する」を「属スル」と改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一請求原因1ないし3、5の事実及び控訴人は三条目録を提出しておらず、被控訴人は同目録を提出し、登記簿にその旨記載されていることはいずれも当事者間に争いがない。

二本件訴訟の主たる争点は、本件物件の三条目録を提出していない本件建物の最優先順位の工場抵当権者である控訴人と、本件物件につき同目録を提出し、登記簿にその旨の記載を受けている本件建物の後順位の工場抵当権者である被控訴人との間で、主文掲記の不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)における本件物件の売却代金分の占める金員につき、届出債権額の範囲内で控訴人が優先弁済権を対抗することができるかどうかである。

そこで、まず、本件建物と本件物件がどのような関係にあるかの検討を要するが、この関係については、原判決六枚目裏八行目の「認められる。)」の次に「甲第五号証の七、第一〇、第一二号証、」を加え、八行目の「以上は」から九行目冒頭の「がない」までを「乙第七号証が昭和六三年一二月五日と平成元年七月一四日撮影の本件建物及び本件物件の写真であること、乙第九号証が平成二年一月一〇日頃撮影の本件建物及び本件物件の写真であること並びに甲第五号証の七、第一〇、第一二号証及び乙第一〇号証の成立は当事者間に争いがない」と改め、一〇行目の「この認定」から一一行目の「できない。」までを削り、七枚目表初行の「バッチャープラント」の次に「(英語からきた言葉で、その綴りはBATCHERPLANTであり、ダム工事などで大量にコンクリートを必要とする場合に使う、大規模なコンクリートの混練装置のことをいう(小学館発行の日本国語大辞典より)。)」を、五行目の「ユニット方式」の次に「(英語からきた言葉で、その綴りはUNIT SYSTEMであり、同一の標準尺度で統一的に製造された単位を単独でも複数で組み合わせても使用できる方式のことをいう(小学館発行の日本国語大辞典より)。)」を、六行目の「組み立てたものであるが、」の次に「前記訴外有限会社三興の発注により、右日工株式会社から、同社の代理店をしている控訴人が購入して、施工したものである。」を加えるほか、原判決が六枚目裏七行目から八枚目表三行目までに説示するところと同じであるから、これを引用する。

右の認定事実によれば、本件建物と本件物件とは一体の物とはいえないが、利用上も、経済的、物理的にも極めて密接な関係にあり、本件物件を本件建物から取り外して処分することは大きな損失になり、本件物件を除外した本件建物だけの価値は激減するものと推認され、本件建物が主物で本件物件が従物であると単純にいうことは憚られる。

工場抵当権の場合には、工場(土地又は建物)と工場供用物(後記2参照)が主物と従物の関係にあるといっても、両者の客観的経済的関係を子細に検討しないで、いずれが主物でいずれが従物というべきかを判断することはでき難いことがあるが、そういう場合をも考慮して、法二条一、二項は、工場の従物である工場供用物に工場抵当権の効力が及ぶことは当然のこととして、工場供用物が工場の従物でない場合にも工場抵当権の効力が及ぶことを明示し、この限りで、法は民法上の抵当権よりも工場抵当権の効力が及ぶ範囲を広く定め、もって、小規模工場の経営者が金融を得易くする道を開いたものと解するのが相当である。

したがって、争点は、三条目録の提出(三条目録が提出されれば、登記官は不動産登記簿に目録の提出があったことを記載しなければならないことになっており(工場抵当登記取扱手続二五条)、登記官が誤ってこの記載を遺漏しても、その対抗力は失われない(大審院昭和一三年五月二八日判決・民集一七巻一三号一一四三頁参照)とされているので、以下、この見解を前提にする。)をもって、工場抵当権者間はもちろん工場抵当権者の一般債権者に対する関係において、対抗要件を定めたものと解すべきである(以下、同説を便宜「三条目録対抗要件説」という。)かどうかに帰着することになる。

そこで、この点について検討するに、当裁判所は、工場抵当権者間及び工場抵当権者の一般債権者に対する関係において、工場について抵当権の登記を具備すれば、法二条一、二項が規定する工場抵当権の効力の及ぶ範囲についての対抗要件としては必要、かつ、十分であり、それ以上に、三条目録として記載すべき物件について、三条目録の提出がされることによりはじめて対抗要件が具備されるものではないと解するのを相当とするが、その理由は次のとおりである。すなわち、

1  法二条一項は、財団を組成しない工場の土地、建物の抵当権の効力の及ぶ範囲につき、「工場ノ所有者カ工場ニ属スル土地ノ上ニ設定シタル抵当権ハ建物ヲ除クノ外其ノ土地ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物及其ノ土地ニ備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニ及フ」と規定し、この規定を、同条二項は工場に属する建物の上に設定した抵当権に準用しているところ、工場抵当権の法的性質は、民法上の抵当権にほかならないものと解される。

2  民法上、抵当権の効力は「目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物」(民法三七〇条本文、以下「付加物」という。)はもちろん、目的不動産の従物(民法八七条一、二項)にも及ぶ(最高裁昭和四四年三月二八日判決・民集二三巻六号六九九頁)ものであり、付加物と従物との関係をどのように理解するかはともかく、法二条一項にいう「附加シテ之ト一体ヲ成シタル物」と民法三七〇条本文にいう「附加シテ之ト一体ヲ成シタル物」とは同一概念であり、さらに、法二条一、二項にいう土地又は建物に「備附ケタル機械、器具」(すなわち、備付物)と「其ノ他工場ノ用ニ供スル物」(以下「工場供用物」という。)の両概念は、規定上、後者も備え付けるられていることが必要であり(そこで、以下、備え付けられた「工場供用物」の趣旨で「工場供用物」という。)、同条一、二項は、工場に抵当権を設定することにより、当然に付加物及び工場供用物の双方に抵当権の効力が及ぶことを規定したものと解される。

3  三条目録対抗要件説が、工場供用物が従物であると否とにかかわらず、同目録の提出がない場合には、工場供用物に工場抵当権の効力は及ぶが第三者に対抗することはできないと解するのであるなら、従物である工場供用物の場合には、不動産につき抵当権の登記があれば、その効力は従物にも及び、これをもって第三者に対抗することができるとする民法上の抵当権に関する従来の判例理論との整合性を欠くことになり、従物でない工場供用物に関してのみ三条目録が対抗要件となると解するのであるなら、工場供用物が従物に属するか属しないかという極めて微妙な判断次第で、工場抵当権の効力を対抗できる範囲が変わるという重大な結果をもたらすことになるところ(工場供用物が工場の従物に該当するか否かについては一義的に明確ではなく、本件の場合も前記認定、判断のとおり、微妙である。)、法が、かかることを承認して、工場抵当権者に工場抵当権設定の交渉に臨むべきことを予定しているとは解し難い。

4  また、工場供用物は工場に備え付けられているのであるから、後順位抵当権者は、工場抵当権を設定するに当たって、工場の登記簿を閲覧し、かつ、工場の内外を観察することにより、先順位抵当権の存否、工場供用物の有無を容易に認識しうるのであり、先順位抵当権者が三条目録を提出していないからといって不測の損害を被るおそれはまずない(この点で、〈書証番号略〉によれば、本件建物の所有権保存登記と控訴人の工場抵当権設定登記日は昭和六〇年三月二三日、被控訴人の工場抵当権設定登記日は同年一一月五日であるが、被控訴人の三条目録の記載がされたのは昭和六一年四月七日の後であり、本件競売事件による差押登記がされたのが同年一二月二五日であると認められることに照らし示唆的である。すなわち、後日、被控訴人が自己も先順位抵当権者の控訴人の工場抵当権もともに三条目録の記載がないことに気付き、債務者の財産状態が悪化したのを察知して、自己の債権保全のため、三条目録対抗要件説の見地から急ぎ工場抵当権設定者に同目録の提出をさせたとの推測も可能である。)。

5  また、法においては、三条目録の記載の変更は設定者の単独申請とされ(法三条二項、三八条、三九条)、抵当権者に同記載変更の請求権がない建前になっているが、これは工場抵当権者の保護に欠けるきらいがある。三条目録対抗要件説をとれば、記載変更を具備させてやることが工場抵当権設定契約における設定者の基本的な債務の内容に包含されていると解されるから、手続上、工場抵当権者に同記載変更の請求権がないというのは理解し難いところである。

三以上の諸点を彼此斟酌すると(なお、右二の1及び2の法律上の見解は、工場抵当権設定者と工場抵当権者間、工場抵当権者と一般債権者間はもちろんのこと、先順位工場抵当権者と後順位工場抵当権者との間でも当然に認識しているべきことであると解される。)、三条目録は、登記簿に記載され、公示されることによって、後順位工場抵当権者又は一般債権者に不測の損害を生じることのないよう注意を喚起する作用を意味することはあっても、それ以上に、同目録の提出を工場抵当権者同士及び一般債権者に対する関係での優劣を決める対抗要件と解すべき実質的理由はないと解される。

したがって、工場抵当権者は、工場に抵当権の登記を経由することで、三条目録の提出とは無関係に、工場のみならず、工場供用物についても、抵当権の効力を対抗することができるものと解するのが相当である。

四以上によれば、控訴人の本件工場抵当権の効力は本件物件に及び、本件物件が本件建物の付加物であるか否か、はたまた従物であるか否かを詮索するまでもなく、後順位工場抵当権者の被控訴人が本件物件につき三条目録を提出していたとしても、控訴人は被控訴人に対して、本件競売事件において、控訴人の届出債権額の範囲内で本件物件の売却代金から優先的に配当を受けることができるものと解される。

そして、当事者双方の主張及び弁論の全趣旨によれば、本件物件の売却代金は九五七万八一六四円を超えていると認められるから、本件競売事件の本判決主文掲記の配当表のうち、控訴人への配当額は、右「配当等実施額」欄のうちの控訴人への配当額八三〇万七一五四円に右九五七万八一六四円を加えた一七八八万五三一八円(これが、本件競売事件における控訴人の届出債権額である。)に、被控訴人への配当額は、右「配当等実施額」欄のうち被控訴人への配当額二五八二万八六三五円から右九五七万八一六四円を差し引いた一六二五万〇四七一円になるべきものである。

よって、右配当表の「配当等実施額」欄のうち、控訴人と被控訴人に対する各配当額は右のとおり変更されるべきものであるから、控訴人の本訴請求は理由があるものとして認容されるべく、これと異なる原判決を不当として取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鎌田泰輝 裁判官 川畑耕平 裁判官 簑田孝行)

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